日経ヘルスケァ 1994.5月号(P.58〜63)掲載
 

 容積率いっぱいに建った都市部の病院を診療を続けながらどう改築するか−。高知市の岡村病院はそうした難問をクリアして今年3月再スタートを切った。リニューアルでは、病床削減などで療養環境を改善する一方、外観と内装はカラフルな色彩で統一し、病院全体のイメージを一新。既存建物を活用しながらのリニューアルの好事例と言える。


同一敷地内で全面リニューアル

 敷地いっぱいに建つ病院のリニューアルで、最大のポイントとなるのはどういうプロセスで工事を進めるかという点。この手順がうまく描けなければ、病棟休止などで経営に与える影響が甚大になるばかりか、思い通りの建物に仕上げることも難しい。この2月に全面リニューアルを完了した高知市の岡村病院も、この過程をどうプランニングするかが大きな課題だ ったようだ。

 下の表にプロセスを示したが、築後約30年の旧館(B)を建て替え新館(A)を改修するのがその骨子。ただし、旧館解体に伴う診療機能の低下を避けるため、手術室やリハビリ、レントゲン室と電気設備を備えたC棟をまず新築し(T期工事)、隣接の土地を借りてプレハブ2階建ての仮設E棟を建設(U期)するところから工事はスタートした。V期でD棟を新築した後は、 A棟の機能をE棟とD棟に仮設移転してA棟の順次改修(W期)複雑なプロセスだけあって、工期は19ヵ月の長期に及んだ。

 同病院ではリニューアルの検討開始前の90年にホスピタル・アイデンティティ(HI)計画をまとめている。そこで打ち出された方針は、科目を循環器、消化器、整形外科にしぼり込んで、専門性の高い急性期型の病院を目指すというもの。リニューアルではこの計画に沿って、心臓血管撮影装置、骨密度測定装置、電子内視鏡を新規導入し、腹腔鏡下手術や心臓血管手 術も実施できる手術室を整備するなど、専門分野の診療機能拡充に力を入れた。

 一方、既存施設がすでに容積率いっぱいに近かったため、リニューアルでも延床面積はほとんど増やせなかった。そこで療養環境を改善するために許可病床数を11床削減。4、5階では 大部屋を5人室にすることで1床当たり5.8u以上(改築の場合の補助条件)を確保し、厚生省か ら約7000万円の補助金を得た。

 同病院では当初、旧館の建て替えのみを行う計画だったが、新館も築10年以上を経て空調や 配管などが更新時期に来ており、スプリンクラーの設置も必要だったため改修も併せて行うことにした。新築、改修の内外装のデザインを統一することで、病院全体のイメージを大きく刷新できたと言える。

 大がかりな工事となった分、事業費は総額10億円にも上る。ただし、リニューアルを契機に 基準看護の取得や適時適温給食、病棟の薬剤管理指導を実施し、差額病室の整備と併せて増収 を図る考え。また、再スタート後短い時期ながら、リニューアルの効果は既に外来患者数の増加という形で表れ始めているということだ。

 同病院のリニューアルは、HI計画でまとめた方向に病院が生まれ変わるきっかけと位置づけられるもの。その“変化”を内外にアピールしてきたという点では、全面リニューアルの決断 は効果的だったと言えよう。                                                                            (橋本 宗明)